天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

高見順の詩碑

東慶寺のはくもくれん

 北鎌倉のはくもくれんについて補足しておく。円覚寺には仏日庵の他にもはくもくれんがあった。墓地である。歌人・高瀬一誌の眠る「高瀬家」の墓から左手下方に高々と二本が立っている。また、東慶寺境内にもあった。花が咲くと目立つので所在がわかるのである。
 仏日庵は北條時宗の御廟所。中央に時宗、向って左に貞時、高時の像が並ぶ。この御廟所とは、遺骨を埋葬し石碑を建てその上に木像を祀る御堂を建てたもの。境内にはもくれんの他に泰山木があるがこれらは、いずれも昭和八年に魯迅から寄贈されたものという。泰山木も花が咲くとみごとである。
 東慶寺にある詩人・高見順の墓は、高台の山際にあるのでちょっとわかりにくい。墓石に向って右側に小さな詩碑が立っている。詩集『死の淵より』から。

        赤い芽
    空をめざす小さな赤い手の群
    祈りと知らない 祈りの姿は美しい
                順


正体は、自宅の蔦もみじの樹で、高見夫妻の結婚記念という。詩碑の向かい、墓地の外側にも植えられて、今や大木に成長している。


      うぐひすの声すみわたる谷戸の朝
      おみくじを結ぶ垣根や梅の花
      谷戸奥に佛牙舎利塔春の闇
      舎利殿や目をこらし見る春の闇
      水仙や高瀬一誌の霊を呼ぶ
      青空にとけこむ谷戸のはくもくれん
      洪鐘を吊るす歳月春の風
      高見順墓にちりくる山椿
      死後もなほ墓に血を吐く椿かな


  純白の上半身はかがやけど春の愁ひの聖観世音
  割れ初めしつぼみ朝日に上向けり魯迅寄贈のはくもくれんは
  一筋の線香立つる御廟所にはくもくれんの莟割れ初む
  白々と咲くふた本のもくれんに高瀬一誌は目を細めゐむ
  おほかたの梅の花散り赤や黄の三椏の花咲きそめにけり
  生前の姿しのばゆ大姉はや黄や桃色の供華にうづもる
  高見順墓に小さき詩碑ありて椿ちるなり血を吐くごとく
  水玉の音色ころがす鶯のすがた探さむ藪蔭の道