天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

岡井隆研究2

 第一歌集『斉唱』の前、習作時代(昭和二十年〜昭和二十二年)の歌をまとめた歌集に『O』(オーと読む)がある。昭和四十五年発行。岡井隆の自注を要約すると次のようになる。

 十七歳の秋から十九歳の冬までの作品。〈模写〉への執着が、制作の主たる動機になっている。〈模写〉の対象は、当然まず自然(山川草木鳥獣魚介)であるが、同時に、正岡子規以来の、根岸短歌会アララギ系の先行作品の模写でもあった。初期で目立つのは、斉藤茂吉とその弟子たちへの傾倒であろう。茂吉への傾倒がなかば崩れつつ、土屋文明とその一派の作品模写へと移行するあたりで、この集は終っている。


 特徴的な歌をいくつか拾ってみよう。


  高雲より夕やけの色消えゆきて白く冷たく星出でにけり
  没りし日の日当たるまでに高く浮く雲居る空はすみて広きかも
  風のむた天つたひくる音ありて渦巻ける雲おし移る雲
  かの日の晴れし磯より拾ひ来てわが机には石二つあり
  苦しみを表す術を知らずしてただ言ひ表す霧と山とそこにゐる吾と
  やすやすと国を説く彼等を考へゐる中汗落ちて机のニスが匂ふよ
  怒りにも悔いにも疲れて記憶力遊戯しぬそして眠れぬ闇ありき


模写とはいえ、若さがみずみずしい。初句、三句、あるいは下句の音数に破調をもたらすことの効果を試している。土屋文明の歌の韻律を研究した跡が見える。