天神
菅原道真と牛との関係は深く「道真の出生年は丑年である」「大宰府への左遷時、牛が道真を泣いて見送った」「道真は牛に乗り大宰府へ下った」「道真には牛がよくなつき、道真もまた牛を愛育した」「牛が刺客から道真を守った」「道真の墓所(太宰府天満宮)の位置は牛が決めた」など牛にまつわる伝承や縁起が数多く存在する。これにより牛は天満宮において祭神の使者とされ臥牛の像が決まって置かれている。
道真が五歳の時に詠んだと伝える歌を次にあげる。
うつくしき紅の色なる梅の花あこの顔にもつけたくぞある
また『大鏡』に出てくる道真の和歌を拾ってみた。次の八首があった。
こちふかばにほひおこせよむめのはなあるじなしとて
はるをわするな
ながれゆくわれはみくづとなりはてぬ君しがらみと
なりてとどめよ
きみがすむやどのこずゑをゆくゆくとかくるるまでも
かへりみしはや
ゆふされば野にも山にもたつけぶりなげきよりこそ
もえまさりけれ
やまわかれとびゆくくものかへりくるかげみる時はなほ
たのまれぬ
うみならずたたへる水のそこまでにきよきこころは月ぞ
てらさむ
あめのしたかわけるほどのなければやきてしぬれぎぬひる
よしもなき
つくるともまたもやけなんすがはらやむねのいたまのあはぬ
かぎりは
なお、漢詩も三首載っている。
[追伸]この漢詩の中の
駅長莫驚時変改 一栄一落是春秋
を本歌取りした次の短歌はよく知られている。
驛長愕くなかれ睦月の無蓋貨車處女(をとめ)ひしめき
はこばるるとも 塚本邦雄
初句と二句の間に句跨りがある点が塚本らしい。坂井修一は「塚本邦雄の戦争詠を代表する一首であり、現代短歌における二重写しの手法を典型的に示す歌として、しばしば話題になった作品である。」と解説している。鑑賞・現代短歌七 坂井修一『塚本邦雄』(本阿弥書店)参照。