天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

虎尾草

龍隠庵にて

 通称トラノオは、オカトラノオを指している。サクラソウ科の多年草。高さは、一メートル近くになることもあり、茎は直立して根もとの方が赤い。俳句では夏の季語。


      掌に承けて虎尾の柔かき    富安風生
      虎尾草や鐘掛岩は屏風立ち   本田一杉


 梅雨でも休日の北鎌倉は、観光客で混み合っている。いや、梅雨だからこそというべきか。最近は、いずこの寺でも紫陽花を植えているので、それが目当てになる。円覚寺も例外ではない。
 境内に散在する塔頭の多くは、墓参以外入ることができないが、唯一、龍隠庵は庭まで開放している。それを知っている人は少ないので、なかなかそこまでは登っていかない。以前に比べて、庵までの道が清楚に調えられていて、ちょっと気が引ける。庭の入り口にまだ若い虎尾草が咲き出していた。静かである。


      山門はみどりしたたる木立かな
      箒目に足跡つくる四葩かな
      あぢさゐや乳房おもたくたもとほる
      境内は紫陽花の波人の列
      桔梗や木魚のテンポ早くなり
      梅雨の谷戸木魚の音のやまざりき
      舎利殿の闇覗き込む梅雨の傘
      唐門の重きに耐ふる暑さかな
      桔梗やお茶のもてなし無人なる


  漱石の鬱を癒しし帰源院泰山木の花天に向く