スポーツを詠む(4)
2004年に亡くなった春日井建が、咽頭癌療養の身をおしてワールドサッカーの試合を見に仙台へ行き歌を詠んだ。歌集『朝の水』「宮城スタジアム即事」二十一首である。
アイーダの合唱ののちニッポン連呼 選ばれし
十一人(イレブン)へ 雨の青芝(ピッチ)へ
サッカーに重ねて亡夫を思ひ出でむ妹と来ぬ雨のスタジアム
ボール転々ゴールへ入りてゆくしじま天使が空を通過するとき
球(ボール)あやつるすなはち時を小刻みにあやつるヒデが蹴る
バックパス
など。どこか白秋の武道詠に似ているようだ。情景を描写しているのだが、かえって迫力が感じられない。
ところが、自身でもボクシングをやっていたという佐佐木幸綱の作品は一味ちがっている。歌集『群黎』より。著者の熱い思いが、構文に措辞にストレートに乗っている。
ラグビーの歌三首。
ジャージーの汗滲むボール横抱きに吾駆けぬけよ吾の男よ
ハイパントあげ走りゆく吾の前青きジャージーの敵いるばかり
ハンドオフする腕に瞬間うけとめる力ありうつくし力は
ボクシングの歌三首
殴り合うために来し暗いジム肉喜々として血はおびえつつ
鏡に投影されし吾の虚像にジャブ放ちつつむなしからず
〈刻(とき)〉
サンド・バッグに力はすべてたたきつけ疲れたり明日のために
眠らん
ちなみに、スポーツとは無縁だったはずの塚本邦雄には、次のよく知られた一首がある。特別な表現があるわけでないが、下句が上句を素直に受けているところが、読者の好感を得るのだろう。
ずぶ濡れのラガー奔るを見おろせり未来にむけるものみな走る
塚本邦雄
他の歌人もラグビーをよく詠んでいる。次のようななかなかよい作品がある。
ラガーらの創痍の肉体(からだ)火を持てり修羅なす夜へ
スクラム組めば 藤森益弘
競りあひをぬけしラガーが荒駈(あらが)けて雨の地平へ
のめり込む見つ 久葉 堯