天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

源氏物語の千年(4)

横浜美術館にて

 塚本の『源氏五十四帖題詠』について最後にするが、語割れ・句跨りの例をいくつかあげておく。なお、題詠とはいっても源氏物語の各帖にでてくる和歌の本歌取りになっているものがほとんどである。
 ちくま学芸文庫本では、塚本邦雄と弟子の国文学者・島内景二の「源氏物語対談」が載っていて、大変参考になる。


  その夏のわざはひの夢わがために一茎のゆふがほぞ裂かれし
                       「夕顔」
  北山の春雨にしもいろまさる乙女わかむらさきのかなしき
                       「若紫」
  身をつくさざりしはわれか鈍色の紙に明石としたためてける
                       「澪標」
  かがり火の絶えなむときに黒髪はひえびえとたなごころに遊ぶ
                       「篝火」
  冷泉のみかどのみゆき鷹狩にたが恋射とめたるささめ雪
                       「行幸
  七十の賀に召せ若菜はるかなるよろこびはつゆじもに濡れつつ
                       「若菜上」
  昨夜の夢こよひのうつつ分きがたくあやしきは真昼間のまさゆめ
                       「総角」
  妻を得たる薫と匂宮よまたかなたのみづに揺るるうきふね
                       「宿木」