天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

源氏物語の千年(3)

横浜美術館にて

 塚本の『源氏五十四帖題詠』にも彼の特徴が現れる。語割れ・句跨りの例も多いが、以下では、七七五七七の形式の歌を全部あげておく。全54首の内、11首もがこの形式である。塚本がいかに意識して作ったか好んだかがわかる。ただ残念ながら、この題詠からは、塚本邦雄の代表歌は生れていない。


  葉月二十日の星の光にくれなゐの花のまぼろし見えみ見えずみ
                       「末摘花」
  朧月夜に及くものひとつ名を告げぬままにぞ消えし乙女の扇
                       「花宴」
  長月果つる一日うつろに石山の石にしたたるうつせみのこゑ
                       「関屋」
  夜の朝顔見しはをととひうとまれて夏をはるべき暗きうつつを
                       「朝顔
  きのふ初瀬にめぐりあひたるゆかりとて日蔭の花のあはれ移り香
                       「玉鬘」
  風のかなたに散りまがふもの花と鳥こころと言葉殊にわが恋
                       「野分」
  人は夕霧空も夕霧いざさらばゆくすゑはみな落葉の宮か
                       「夕霧」
  法華経千部書きおほせしが花の夜をむらさきの上はかなくなりつ
                       「御法」
  匂宮は匂ひに痴るるおのづから香に立つ馨君ときそひて
                       「匂宮」
  薫かをれよ月は天心竹河のひとふしに夜を明かさむとこそ
                       「竹河」
  宇治十帖のはじめは春の水鳥のこゑ橋姫をいざなふごとし
                       「橋姫」