秋の潮
吾妻山の山頂には、まだ体の色づきが浅い赤とんぼが群れて飛んでいた。黄花コスモスが陽光に輝いていた。二宮海岸に下りて突堤の釣人を見ていた。大磯沖にかすむ釣舟を見ていた。
秋風や鳩の和毛(にこげ)も駅ホーム
彼岸花蘂が支ふる落葉かな
山頂の我をめぐるや秋あかね
小さき雄従へてをり女郎蜘蛛
地虫鳴く山の斜面(なだり)の木の末に今年最後のつくつく法師
鳳仙花はかなき色に咲く朝は山の斜面をキチキチが跳ぶ
婚姻色いまだ浅きに秋あかね群れてあそべるキバナコスモス
山頂のわがめぐりなる秋あかね芝生に映る影あたらしき
うち寄せて岸辺の砂利を引き込める濁り泡立つ秋の潮は
釣り上げし一尾キラキラきらめきて立入禁止の突堤に跳ぬ
行き先をテトラボッドにはばまれて白く泡立つ秋の潮は
秋ふかみ潮黒ずめる海原に釣舟三つ大磯の沖
それぞれのま中に主静もれり路傍木蔭の女郎蜘蛛の巣
木の間には蜘蛛の巣ならびかかりたり獲物を待ちて秋風に揺る
女郎蜘蛛巣の真ん中に静もれば糸を伝ひて雄が近づく