由比ケ浜(2)
由比ケ浜に流れ込む小さな川がある。稲瀬川という。細々とした流れなのに、万葉集の原文で美奈能瀬河として出てくる由緒ある川なのだ。詠みは次のようになっている。
ま愛しみさ寝に吾は行く鎌倉の美奈の瀬川に
潮満つなむか
鎌倉駅から若宮大路を下り滑川の河口に出て、久しぶりに由比ケ浜を歩いてみた。夏の喧騒がなくなり秋が深まると浜辺の人影は少なくなる。ただ驚いたことに、サーファの数が随分増えている。このような遠浅の海では、天気が荒れない限り大きな波は期待できない。
鬱ふかき大樹の蔭にしづもれり重保祀る宝筺印塔
黒ずめる宝筺印塔銘に見る明徳四年 大路の木蔭
滑川河口の水はよどめども釣糸垂るる三人家族
うねりくる波にボードを滑らせてやをら立ちたり黒きサーファ
海草のくろぐろ散れる由比ケ浜今も出づるとふもののふの骨
鎌倉のいくさをしのぶ由比ケ浜人骨塚のあり処さがして
砂浜に二羽つれだちてとび歩く恋をかたるか背黒鶺鴒
重臣のいさめも聞かず造らせし唐船ひとつ浜に朽ち果つ
あざけりとあはれみ浴びて朽ち果てし唐船あるは歌人将軍
将軍の歌のこころにつけこめり行方知れずの僧・陳和卿
遠浅の海に来たればシャチさへも身動きならぬまして唐船
万葉の歌に詠まれし美奈能瀬河ほそき流れのいま稲瀬川
ひとところあかむらさきの群落は浜に咲きたるおしろひの花
ときをりに銀の鱗の腹かへす川のよどみの黒きかたまり
ひと口を齧りて捨てしりんごなれうしほ潮が洗ひ浜に色づく
猫と見る三尊五祖の石庭に枯葉ちるなり南無阿弥陀仏
ながながと魚身うかべて年を経し動けばにごる水の蓮池
弟にライダーの面七五三
りんご飴口にあまれる七五三
鎌倉を生きて出でけん初鰹 芭蕉