天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

師走ある日の上野公園

公園の一隅

 今年最後の短歌人・東京歌会が上野の文化会館で開催された。いつものように歌会の前に公園の中を散歩した。いままで迂闊にも気付かなかったのだが、正岡子規が明治19年から23年の頃、上野公園で野球を楽しんだことから、公園にある小さな球場には「正岡子規記念球場」の名前がついている。そして
      春風やまりを投げたき草の原

瀟洒な句碑がある。子規はベースボールに関する言葉を日本語に訳したことで貢献した。「野球」「打者」「走者」「直球」等々。なお、野球をするとき、子規は捕手をつとめたらしい。ところで、高浜虚子が選をした岩波文庫『子規句集』には、この句碑の句は採っていない。野球の力強さがなく幼稚さが目立つ、と判断したのかもしれない。


      上野では大道芸の師走かな


  鴨、鴎あまたいこへる中をゆく家族四人の白鳥ボート
  足音に耳さとく寄る不忍池になじみのキンクロハジロ
  一年を妻と暮らして離婚せし鴎外旧居水月ホテル
  鴎外のすまひの跡を中庭に残してぞ立つ水月ホテル
  正岡子規記念球場無人にて大道芸の口上きこゆ
  これが最後これが最後と言ひながら玉投げ上ぐる
  ジャグラーの芸


  男五人が太鼓、ギターをうち鳴らし笛吹きうたふアンデスの歌
  枯葉ちるケヤキの下にうちたたく男ひとりの津軽三味線
  銅像は落葉の中に立ち尽くす試験管手にかかげたるまま