小池光の短歌講座
小池光さんの文章の面白さ・切れの良さにつき日頃感心しているせいか、「短歌人」の川井怜子さんが、私のためにわざわざ彼の仙台文学館での短歌講座の抄録小冊子(五百円)を送って下さった。第一部・作品鑑賞と第二部・受講者作品へのアドバイスからなる。
夏休み旅行の移動の電車内で一気に読んだ。まことに面白い。彼の短歌鑑賞の仕方、短歌作成の要諦などが講座のままにまとめられている。
アドバイスからいくつか要点を拾ってみる。
*あいまいな日本語、雑な日本語はさける。
*ひねりをいれると面白くなる。「クツクツと下駄が笑う」
「ゲタゲタと靴さんざめく」とか。
*空疎な言葉やつきすぎの言葉、甘くなる言葉、チラシに
出てくるような言葉を避ける。
*一首の中に切れを入れて一瞬の間合いをとるとよい。
ただし、俳句になってしまう構造はマズイ。
*短歌はすべてひらがなで書いてみて、どうしても漢字に
直さなければならないところを直していけばよい。
全部ひらがなだとメリハリがなくなるので、一箇所を
漢字にすることで印象深くなる。
*理詰めや解説じみること、語りすぎなどは避ける。
*大事なことは最後にもってくる。
*少ない言葉でゆっくりしゃべる。大切な場面になるほど。
*無用な破調は避けること。
*短歌では、数字は常に比喩的。どの数にするかをしっかり
考えるのが歌を作る楽しさ。
*よく使われる言葉は、短歌では安っぽくなることが
あるので、類語辞典で他の言い方を探すことも大切。
*短歌は強く言い切るのが勝負。腰がひけてはいけない。
*オノマトペをカタカナで書くと目立ちすぎることがある。
ひらがなにする。
*だらしない時は、だらしないように表現を崩す。
*言葉ひとつで一挙に異様な世界になる。「牛舌」というより
「牛の舌」と言ったほうが異様さが出る場合がある。
*名詞三年、動詞八年、てにをは三十年。
個々の作品を引用していないので、いささか抽象的になってしまった。
こんな講座を受講している人たちは、なんと幸せなことか。たちまちに短歌の達人になりそうである。書籍のみを頼りに独力で短歌を学んできた者の効率の悪さが思われる。
古典和歌に革新をもたらした藤原定家の言葉「和歌に師匠なし。只旧歌を以て師となす。心を古風に染め、詞を先達に習はば、誰人かこれを詠ぜざらんや」(『詩歌大概』)を思えば、文字通り隔世の感がある。