折に触れて
しばらくご無沙汰していた二宮町の吾妻山に行ったら、さまざまの花が咲いていた。最近までは、冬枯れの光景で、色っぽいものなどほとんど見かけなかったので、すべてが目に鮮しかった。辛夷、白木蓮、諸葛菜、こごめ桜、連翹、しゃが、馬酔木、木五倍子 など。それぞれについては、後日、関連の歌を紹介する。帰りに藤沢の遊行寺に寄って白木蓮の名木を見た。これも後日に。以下は、こうした散策の折の嘱目詠である。
菜の花に瑠璃蜆来と指させり
るりしじみイヌノフグリにまぎれたり
たばこ屋の店先に置く自販機に煙草はあれど店番はをり
くるま置く民間車検工場の屋根漏る光工具を照らす
お気軽に見学せむとひとり入るメモリアル・ガーデン墓所受付中
レギュラーの値段を二円割り引くと会員登録を店主すすめき
はだけたる胸に当つれば聴診器つめたけれども桜前線
火蔵(ぽつくら)とふ店のメニューに立ちどまる血圧のこと言
はれし朝に
火蔵とふ店のメニューを見渡せば豚、牛、魚の鍋ものばかり
わが横にくしゃみ、咳する女ゐてマスクしたれどウィルスはとぶ
朝の陽が窓のかたちを切りだして床に映せり下りの電車
ひよどりが冬枯れの木に啼き交はし春彼岸会の間近きを告ぐ
イヌシデの幹の断面見下ろして明日はわが身と咲く山桜
しやがの花、辛夷、連翹、花大根わが訪はぬ間に咲く吾妻山
大乗は易占、祈祷、地鎮祭引き受けますと看板に見ゆ
時告ぐる機械の横の看板は小田原霊園納骨堂
一日を家にこもりてその明日(あした)山にのぼれば脚ふくれたり
就活のをとめに生理きたるらし顔色さへずパンフレット見る
鍵を売るドロボウ対策専門店鍵解く技も知りつくしたれ
ザリガニは居るかと足をふみ鳴らす小栗判官眼洗之池
土佐づくり八丈島産の初がつを焼酎ロックに合ふはうれしも
富山湾の闇に点りし蛍烏賊わが食卓に赤身をさらす