泉(1)
湧き出る清冽な水。今年のように節電の猛暑では、言葉自体にひとしおの涼しさを感じる。谷戸で聞くその水音は、熱中症に効く。大がかりなものでは、三島の柿田川の湧水や忍野の湧水池がある。いずれも富士の伏流水が源。
今回は、短歌に詠まれた例をあげる。清水、井など類語があるが、以下では、泉(いづみ)のみを取りあげる。
ほどもなく泉ばかりに沈む身はいかなるつみの
ふかきなるらん 拾遺集・源 順
下くぐる水に秋こそかよふらしむすぶ泉の手さへ
涼しき 新千載集・中務
森のなか朝来てみれば草むらのいづみに沈む
白飯(しらいい)のつぶ 中村憲吉
湧きいづる泉の水の盛りあがりくづるとすれや
なほ盛りあがる 窪田空穂
桃二つ寄りて泉に打たるるをかすかに夜の闇に
見ている 高安国世
死はそこに抗ひがたく立つゆゑに生きてゐる一日
一日はいづみ 上田三四二
怒りつつ立つ人体はうがたれて見よかぎりなき
泉が噴くも 岡井 隆