天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

イヌフグリ

田浦梅の里にて

 ゴマノハクサ科の二年草。ふぐりの名はその実の形からきている。ヒョウタングサ、テンニンカラクサとも。漢名は地錦。春の季語。川崎展宏にはイヌフグリの句が七句もある。次に全句をあげよう。


     いぬふぐり兼好さんの森は其処     川崎展宏
     コートのひと其処此処跼み犬ふぐり
     腰曲りたる婆速し犬ふぐり
     友達の影やはらかく犬ふぐり
     犬ふぐりの浄土より足はみ出せり
     山城も大和も径の犬ふぐり
     坊さんが佇つ一面の犬ふぐり


 イヌノフグリは現在では少なくなり、明治期にヨーロッパから渡来したオオイヌノフグリを多く見かけるようになった。


  むらさきのいぬのふぐりの花に寄るこころしばらくは
  保たしめたまへ             谷 鼎


  聖母の目星の瞳といふ花をあるいは犬の陰嚢ともいふ
                     後藤直
  いぬのふぐりの散りたる花はむらさきに夕べ閉じたる
  花のひまひま            石川不二子


  犬ふぐり咲ける堤を子と行けば子の髪ぬらすほどの日なたあめ
                     高野公彦
  いぬのふぐり光反射して咲く今日を人ら諍ひ和解してゐむ
                     舛井義郎
  瑠璃色のビーズこぼれて春の野に花と咲きたるオオイヌフグリ
                     宮脇瑞穂
  幼ならを写さむと覗くファインダーに犬のふぐりの群れ
  咲くが見ゆ              熊谷淑江