桐の花(続2)
キリは鳳凰の止まる木として神聖視され、日本でも平安時代の頃から天皇の衣類の刺繍や染め抜きに用いられた。「菊花紋章」に次ぐ高貴な紋章であった。天下人たる武家が望んだ家紋であり、豊臣秀吉は天皇から「五七桐」を賜った。俳句で、桐の花は夏の季語。
山口誓子の句は、何故か安土城の天守閣を沓はいて信長が歩いている情景を想ってしまう。伊藤通明の句は、高貴なものと生臭いものとの対比がリアルで鮮烈。
天領の境に咲くや桐の花 河東碧梧桐
桐咲けり天主に靴の音あゆむ 山口誓子
桐の花盥に曲る山の鯉 伊藤通明
桐の花わが思ふ子が往(ゆ)きかよふ径(みち)のほとりに
散りにけるかな 植松寿樹
桐の花むらさきさわぐ風のなか両眼みひらくに貧窮の者
坪野哲久
雨よりも冷たき色よ桐の花雨より哀しき音たてて落つ
木立 徹
咲く桐の季(とき)すでに過ぎすずやかに黎明の野を誰か
歩み来 大塚善子
颯颯と降りくる天のむらさきをふたたび天にかへす桐の花
松永智子
リラの花藤の花房桐の花通勤途上はなべて紫
熊谷淑江