鑑賞の文学 ―俳句篇(27)―
白牡丹といふといへども紅ほのか 高浜虚子
[山本健吉]
大正十四年五月、大阪での作。・・・中七の「いふといへども」と、
おおらかに停滞した調子が、白牡丹の豪華凄艶な美しさとよく照応
している。初五の字余りから中七へかけての緩徐調が、結びの
「紅ほのか」でほどよく引き締められて。こういう言い方は虚子で
なければできぬ。
[飯田龍太]
「三月十二日。葉山・水竹居別邸」での作という。この句の紅は絶妙。
これこそ言葉の魔術。詩の髄から発した幻妙の精気。こういう句を見る
と、虚子という俳人は、矢張り怪物、と思わぬわけにはいかない。
・・・二読し、三読するにしたがって、幹を鮮血がのぼり、細枝に
むらがり咲く花々に紅色をそそぐ。
[川名 大]
・・・この句の鑑賞のポイントは、内容面からは、白牡丹にほのかな
艶を見出した「紅ほのか」であるが、表現面からは、「白牡丹」で軽く
休止して、「といふといへども」へとくねるように展開してゆく悠揚
とした、たゆたう調べにある。上五で白牡丹のイメージを提示し、中七
の緩徐調へ移り、下五で引き締める調べは、白牡丹のふくよかさと見事
に照応している。・・・この句は読みも大切で、「はくぼたんというと
いえどもこうほのか」と読んでこそ白牡丹の清楚な気品が感受される。
* 川名 大の「この句は読みも大切で」以下の説明がよく分からない。
これでは、白牡丹は「はくぼたん」と読むのだよ、ということを
指摘しているだけ。