時雨(3)
現代の俳句、短歌から例をあげる。次の安住 敦の句を見るにつけて、俳句の詩形と言葉の喚起力とが絶妙に調和する姿にほとほと感心する。俳句の存在意義を実感する。
しぐるるや駅に西口東口 安住 敦
しぐれ来と首ふり立てて三春駒 中村苑子
釣りあげし鮠に水の香初しぐれ 飯田龍太
片時雨藁にもえつく藁火かな 長谷川櫂
未明より天(あめ)の時雨はふりそそぎ洋傘(こうもり)のなか
人に顔なし 岡部桂一郎
竹とわれと一客一亭しぐれおり世にふるは激しきこころならずや
馬場あき子
かさばりて檪(くぬぎ)はいまだ葉の落ちず時雨の雨のたまりて
降れり 片山貞美
夕空の寒のしぐれに濡れながらしんがりをくる鴉のまなこ
津川洋三
原稿用紙の上にたばしる時雨あらば孤立無援よ濡れてゆくべし
福島泰樹
帰るべきところは朧となしおかむ山茶花時雨の木の間は煙る
北沢郁子
歩いても歩いてもなほ消えやらぬ寂しさのあり 夕時雨する
葛西水湯雄