「丘のうえの樹」
以前にもご紹介したことがあるが、これは横浜の「万葉集を読む会」が毎年発行している小冊子であり、本年度で5冊目になったという。会員である川井怜子さんからその5冊目を頂いた。この冊子には、会員それぞれの万葉集に関わる勉強や調査の内容が、エッセイとして書かれている。今回読んでみて、私の知らない詳細なことが多く、ビックリした次第。以前の内容と比べて深化を感じた。会員のみなさんが一緒にあるいは個人として、万葉集の歌枕を訪ねておられることも奥床しい。現在では忘れられてしまった歌枕が、万葉集の歌と共に懐かしく語られる。近代になって地名が変更になったことも忘れられる要因である。冊子から歌の例をいくつかあげておこう。
ちはやふる 神のみ坂に幣奉(ぬさまつ)り 斎(いは)ふ命は
母父(おもちち)がため [中山道神坂峠]
吾が恋はまさかもかなし草枕多胡の入野の奥もかなしも
[高崎市吉井町]
高松(たかまと)のこの峯も狭(せ)に笠立てて盈(み)ち盛りたる
秋の香のよさ [奈良市高円山]
千鳥鳴く佐保の河瀬のさざれ波止む時もなしわが恋ふらくは
[平城京佐保川]
今造る久邇(くに)の都は山川の清けき見ればうべ知らすらし
[木津川市加茂町]
ドナルド・キーン氏との交流もあるようである。