天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

辛夷(こぶし)

鎌倉・長谷寺にて

 モクレン科の落葉高木。日本原産で各地の山中に自生していたことから呼び名も多い。木筆(こぶし)、山木蓮、やまあららぎ、田打桜 など。


     一弁の疵つき開く辛夷かな       高野素十
     辛夷より白きチョークを置きにけり  西嶋あさ子


  山暮らしこの切なさにあり狎(な)れてけふは辛夷の木と
  なりて佇つ            清田由井子


  明るさはうつつともなく幾百の辛夷は処女のひしめく犬歯
                     篠 弘
  しあはせの幾通りもの壊し方描きつつ風辛夷を散らす
                   尾崎まゆみ
  遠山の谷に辛夷のしろきときほほほほほほと土偶の唄ふ
                   牛山ゆう子
  眠りより覚めゆくごとし春の陽に辛夷は蕾の萼を脱ぎゆく
                   酒井京子
  つぎつぎと友逝くこの冬長くして光るこぶしの花芽仰ぎつ
                   東野典子