わが歌集からー旅(3/7)
沖縄(一) 六首
泡盛はタイの米から作るといふ砂糖黍からと思ひをりしを
彼我の兵たふれしといふ司令部の塹壕跡にガジュマル立てり
砲撃の跡に設けし神の座の白きちひさき首里森御獄(すいむいうたき)
沖縄(うちなー)の死者の魂(まぶい)も目覚めけむニライカナイに朝日が昇る
沖縄(二) 六首
首里城の玉御冠(たまんちやーぷり)つつましき金銀水晶珊瑚碧玉
豚足にはつか付きたる皮を食み十年ものの泡盛に酔ふ
半世紀経ちてわが見るひめゆりの塔の下なる小さき洞窟
隠れ棲む壕を恐るる米兵が放つ紅蓮の火焔放射器
顕彰の碑のわだかまる庭内にデイゴは朱き花を散らせり
トン当り二万円では成り立たぬ見捨てられたる砂糖黍畑
沖縄(三) 五首
夕暮のなぎたる海の沖白み那覇の港を出づる黒船
首里城の四つ爪持てる竜の群三十三匹が正殿に棲む
砲弾の飛ぶ音の中保線せり十四歳の通信兵は
鎮魂の摩文仁の浜に寄る波をまぶしと思ふ五十五歳は
悲しみの風化する島ふたたびの戦思ひて沖縄を発つ