月のうた(1)
天体の月の語源は、太陽(日)の次の星の意味から「次(つき)」と呼ばれたらしい。この月は、ふたつの観点からまとめることができる。先ずは季節の月。そして月の満ち欠け(月齢)に関わる呼び名 である。これは陰暦八月の月齢に対する呼び名である場合が多い。日本ほど月の呼び名が豊富な国は他にないのではないか。
初めに季節の月を詠んだ作品をいくつかあげる。
春の月: 春の夜の月、春月夜、花月夜、桜月夜
下京や紅屋が門をくぐりたる男かはゆし春の夜の月
与謝野晶子
清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき
与謝野晶子
蹌踉と街をあゆめば大ぞらの闇のそこひに春の月いづ
若山牧水
夏の月
夏の月すずしく照れりわれは聞く云はぬこころの限りなき声
窪田空穂
思ひ出でよ夏上弦の月の光病みあとの汝をかにかくつれて
土屋文明
秋の月: 月読、月代
東北の町よりわれは帰り来てああ東京の秋の夜の月
斎藤茂吉
月読は光澄みつつ外(と)に坐(ま)せりかく思ふ我や水の如かる
北原白秋
冬の月: 寒月
一時間歩めば小暗き町空にあな大いなる冬の満月
窪田章一郎
落すもの払ひ尽しし銀杏大樹樹影すがしく寒月かかる
田所妙子
差し交はす枝々の間を灰色の空気ににじむ冬の月見ゆ
扇畑忠雄
顔ひとつ置き忘れたるままにして寒月の窓鎖(さ)してしまへり
畑 和子