天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

風の詩情(5)

歌川広重の浮世絵から

 藤原良経は、幼少期から学才をあらわし、漢詩文にすぐれたが、和歌の創作も早熟で、千載集には十代の作が七首とられた。藤原俊成を師とし、従者の定家からも大きな影響を受けた。政治の立場では、後鳥羽院の信任を得て、摂政に任ぜられたが、三十八歳で急死した。一首目の歌はなかなか複雑な情景を巧みに詠んでいる。意味は「空はまだ霞んでなくて、風が冷たくふいている。雪が降りそうな雲行きの夜空に春月が出ている。」


  空はなほかすみもやらず風さえて雪げにくもる春の夜の月
                  藤原良経『新古今集
  あふちさく外面の木かげ露おちて五月雨はるる風わたるなり
                  藤原忠良『新古今集
  かたえさす麻生(をふ)の浦梨はつ秋になりもならずも風ぞ
  身にしむ             宮内卿新古今集


  いつしかと荻の葉むけの片よりにそそや秋とぞ風もきこゆる
                   崇徳院新古今集
  吹くかぜの色こそ見えね高砂のをのへの松に秋は来にけり
                  藤原秀能新古今集
  武蔵野やゆけども秋のはてぞなきいかなる風の末に吹くらむ
                  源 通光『新古今集
  津の国の難波のはるは夢なれや蘆の枯葉に風わたるなり
                    西行新古今集