天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

風のうた(7)

歌川広重の浮世絵から

 一日の時間区分に対応して名付けられた風もある。朝風、あさけの風、夕風、朝凪、夕凪、昼の風などである。



  恋ひつつも稲葉かき分け家居れば乏(ともし)くもあらず秋の
  夕風                作者未詳『万葉集


  妹に恋ひ寝(い)ねぬ朝(あした)に吹く風は妹にし触ればわれと
  触れなむ           柿本人麻呂歌集『万葉集


  月読(つくよみ)の光を清み夕なぎに水手(かこ)の声呼び浦廻
  (うらま)漕ぐかも          作者未詳『万葉集


  しほがまにいつか来にけむあさなぎに釣する舟はここに寄らなん
                    作者未詳『万葉集
  草枕夕風さむくなりにけり衣搏つなる宿やからまし
                   紀 貫之『新古今集
  秋立ちていく日もあらねどこのねぬるあさけの風はたもとすずしも
                     安貴王『拾遺集
  庭のおもにゆふべの風は吹きみちて高きすすきの末ぞ乱るる
                     伏見院『風雅集』
  あさ風にまほかたまけてきそひゆく船みるごとき筆のあとかな
                       会津八一
  昼の風曇りの空に流るるを着ぶくれし少年と火によりて聞く
                       服部直人