天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

死を詠む(1)

万葉集

  旅にして物恋(ものこほ)しきに鶴(たづ)が声(ね)も聞えざりせば
  恋ひて死なまし        万葉集・高安大島


  かくばかり恋ひつつあらずは高山の磐根(いはね)し枕(ま)きて死
  なましのものを        万葉集・磐姫皇后


  今は吾(あ)は死なむよわが背生(い)けりともわれに寄るべしと言ふ
  といはなくに         万葉集坂上郎女


  帰りける人来(きた)れりといひしかばほとほと死にき君かと思ひて
               万葉集・狭野弟上娘子
  今は吾(あ)は死なむよ吾妹(わぎも)逢はずして思ひ渡れば安けくもなし
                 万葉集・作者未詳
  秋の穂をしのに押し靡(な)べ置く露の消(け)かも死なまし恋ひつつあらずは
                 万葉集・作者未詳
  いつまでに生かむ命そおぼろかに恋ひつつあらずは死なむ勝(まさ)れり
                 万葉集・作者未詳
  恋ふること益れば今は玉の緒の絶えて乱れて死ぬべく思ほゆ
                 万葉集・作者未詳
  死(しに)も生(いき)も同じ心と結びてし友や違(たが)はむわれも寄りなむ
                 万葉集・作者未詳


生きとし生けるものに生老病死は必然の現象である。特に死は、我々人間にとっては受け入れがたい厄介なもの。このシリーズでは死に対する思いをどのように短歌で表現してきたか、を見てゆきたい。短歌の主要な主題の一つである。ただし、煩雑さを避ける観点から、「死」か「死ぬ」(活用形も)を含む歌に限定しておく。それにしても到底上げきれない。(さらに雲隠り、消える、逝く、永の眠り、安楽死、臨終 などと死を意味する言葉と歌の数は膨大。)