天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

衣のうたー袖・袂・襟(10/11)

  かりに来(く)と聞くに心の見えぬればわがたもとにはよせじとぞ思ふ
                    金玉集・伊勢
*「狩に来ると聞くと、あれかと心が見えてしまうので、わが手もとには寄せ付けまいと思う。」

  涙にも波にもぬるる袂かなおのが舟々(ふねぶね)なりぬと思へば
                      和泉式部
  唐ころも花のたもとにぬぎかへよわれこそ春の色はたちつれ
                 新古今集藤原道長
*「私が贈った夏の美しい衣裳に着替えなさいよ。私の方といえば、花やかな春の色の服を着るのは、もうやめてしまったけれど。」

  こころある雄島のあまの袂かな月やどれとは濡れぬものから
                  新古今集宮内卿
*「風流を解する雄島の海人の袂であるよ。月の光を映せというつもりで海人は濡れているわけではないが。」

  忘るなよやどる袂はかはるともかたみにしぼる夜半の月影
                 新古今集藤原定家
*「忘れないでくださいね。涙や月が宿る袂が変わっても、涙にくれながら濡らした袂に宿る今宵の夜半の月の光を。」

  旅人は袂涼しくなりにけり関吹き越ゆる須磨の浦風
                 続古今集在原行平
*「旅人は袂を冷ややかに感じるようになった。関を自由に吹き越えてゆく須磨の浦の風よ。」

  惜しみこし花の袂も脱ぎかへつ人の心ぞ夏にはありける
                  金槐集・源 実朝

f:id:amanokakeru:20200628070620j:plain

雄島