天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

雲のうた(2)

横浜市東俣野から見た夏の雲

 万葉集には「雲」の詠まれた歌は、200首くらいある。
一首目の「隠口(こもりく)」は、「泊瀬」にかかる枕詞。「く」は所の意味。「こもり」は、中に入って出ないこと。隠れて現れないこと。大和の泊瀬は山に囲まれた所からきている。また四首目の「百伝ふ」は、数えていって百になる意から、「八十(やそ)」「五十(い)」にかかる。また、「い」の音を含む「磐余」にかかる枕詞である。また多くの地を次々に伝わりゆく意から、「わたる」「津(つ)」「鐸(ぬて)」にもかかる。「雲隠りなむ」は、「死んでしまおう」の意味で、凄絶。


  隠口(こもりく)の泊瀬(はつせ)の山の山の際(ま)にいさよふ
  雲は妹にかもあらむ      柿本人麿『万葉集


  海神(わたつみ)の豊旗雲に入日さし今夜(こよひ)の月夜
  さやけくありこそ        中大兄『万葉集


  ここにして家やもいづく白雲のたなびく山を越えて来にけり
                  石上卿『万葉集
  百伝ふ磐余(いはれ)の池に鳴く鴨を今日のみ見てや雲隠りなむ
                 大津皇子万葉集
  天雲のそくへの極み遠けども心し行けば恋ふるものかも
                 丹生女王『万葉集
  青山を横ぎる雲のいちしろく我れと笑まして人に知らゆな
                 坂上郎女『万葉集