以下の作品の内、原田、三枝、永井の歌は、観音像を見ながら周囲の状況との関わりを詠んでいる。いずれも清々しい世界が感じられる。対して、辺見、内野の歌は信仰の対象としての観音にすがる気持が現れている。内野の歌は、母が亡くなった時のことと分る。
観音のすずしき眼みそなはし春野をゆらに月のぼりそむ
原田 清
闇のなかに仄かにあかるみくる視野の慈母観音の春の
てのひら 三枝浩樹
じゃがたらの咲きたるまひる渡岸寺(どうがんじ)の
くわんおんに問ふこと多かりき 辺見じゅん
わが母を返し申さむ観世音勢至諸菩薩よ導き給へ
内野芙美江
水瓶(すいべやう)に春の大和のうすあかり今汲みぬとて
佇つ観世音 永井陽子