天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

現代俳句の笑いー比喩

柊書房刊

 比喩の種類には、次のようなものがある。高野公彦『うたの回廊』(柊書房)から要約。

直喩(明喩とも): 一つの事物を、「やうに」「やうな」
    「如く」「如し」「に似る」などの語を介して、
    他の事物になぞらへる方法。
暗喩(隠喩とも): 一つの事物を直接他の事物になぞらへる方法。
換喩: 一つの事物を表現するのに、その事物の特徴的な部分を
    言うことで全体を表現する方法。
提喩: 個(特殊なもの、個別的なもの)によって類(総称的なもの、
    全体的なもの)を表したり、反対に、類によって個をあらはす方法。
諷喩: 全く別の表現によって本義を類推させる方法。
音喩: 事物の様態を直接描写せずに、抽象的な音であらはす方法。
    オノマトペ
序詞: 下の句に対して比喩として有効に働く。


 以下に川崎展宏の例句をあげる。

     夕映えや残雪斧のかたちして       (直喩)
     身をよぢる如くに束ねられ紫苑      (直喩)
     冬晴れの微塵となりし母の愚痴      (暗喩)
     春水にあばたの鐘を撞き鳴らす      (暗喩)
     春濤に箏を差し出したる岬        (暗喩)
     襟巻や毛皮ぞろぞろ念仏寺        (換喩&音喩)
     露地露地を出る足三月十日朝       (換喩)
     月見草轍の水のしんと冷え        (音喩)
     饐えやすき猫の御飯におろおろす     (音喩)


 換喩は江戸俳句でもよく用いられた。省略と誇張の表現ともいえ、笑いをもたらす。

     川越て赤き足ゆく枯柳        鬼貫
     おちぶれて関寺うたふ頭巾かな    几董
     春雨やものがたりゆく蓑と傘     蕪村


なお比喩の分類・種類には諸説あり、擬人法も比喩の一種と考えられる。与謝蕪村は、比喩を多様に用いた。
[参考]佐藤信夫『レトリック感覚』、『レトリック認識』
              (いずれも講談社学術文庫)、
    堀切 実『表現としての俳諧』(岩波現代文庫