鳰と狼(11/11)
おわりに
森澄雄の評価については、山本健吉から俳句の本質的なものを習ったと言い、芭蕉の伝統を継承したので、さしたる波乱はなかった。しかし前衛を進んだ金子兜太には批判が相次いだ。中でも社会性俳句に対する山本健吉の意見は厳しかった。曰く「イデオロギーであって詩になっていない。危険だ。俳句の良さをぶち壊してしまう。」その例句が、
縄跳びの純潔の額(ぬか)を組織すべし 『少年』
であった。イデオロギーの標語になる危険を孕んでいた。「俳句の固有性」を主張する山本健吉との間で「社会性論争」が起きる。しかしついに理解し合うことはなかった。
兜太は前衛的営為の成果と反省について、次のように総括している。(「衆の詩―<日常>を見なおす」(朝日新聞:昭和49年9月6日夕刊))
成果―伝統詩形を戦後の現実に投じ、徹底して現在の場からとらえなおそうとしたところ。
反省―過度な詩法を求め、詩を非日常のものとする図式に執着しすぎた。
兜太は俳句の記録性を重視する。彼の前衛作品も生活の断面を取り出して造型したものであった。
[参考文献]主要なもののみ。
森澄雄『季題別森澄雄全句集』角川学芸出版
森澄雄『俳句への旅』角川ソフィア文庫
森澄雄『森澄雄対談集 俳句のゆたかさ』朝日新聞社
上野一孝『森澄雄俳句熟考』角川書店
金子兜太『わが戦後俳句史』岩波新書
金子兜太、池田澄子『兜太百句を読む』ふらんす堂
金子兜太『俳句―短詩形の今日と創造』北洋社
金子兜太『小林一茶―句による評伝』岩波現代文庫
酒井弘司『金子兜太の一00句を読む』飯塚書店
荻原井泉水編『一茶句集』岩波文庫
山本健吉『山本健吉俳句読本―第一巻・俳句とは何か』角川書店