天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

鳰と狼(1/11)

春陽堂から

(注)鳰は「にお」と読む。カイツブリのこと。


はじめに
太平洋戦争後の俳句の行方は、大きく分けて二つの方向がある。派で言うなら伝統派と前衛派である。ここではそれぞれの代表者として、森澄雄金子兜太を取りあげる。経歴から見ると類似点がきわめて多いが、俳句では対極的なそれぞれの道を拓いた。現在に至るまでの戦後俳句を展望する上で、両者の比較はおおいに参考になる。
ふたりが傾倒した俳諧の先人には、森澄雄松尾芭蕉に、金子兜太小林一茶にという違いがあった。
     鳰も居りわが初だより淡海より
                森 澄雄『鯉素』
     おおかみに螢が一つ付いていた
               金子兜太『東国抄』
これらの句は、ふたりの俳句の上の行き方を象徴するものとしてあげておきたい。それぞれ、後で述べるように芭蕉と一茶の句を本歌取りしている、と解釈できるのである。