天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

河童と我鬼 (4/10)

青空文庫POD

芥川の「澄江堂雑記」(二十八 丈艸の事)に、次の文章がある。
「蕉門に龍象の多いことは言ふを待たない。しかし誰が最も的的と芭蕉の衣鉢を伝へたかと言へば恐らくは内藤丈艸であらう。少くとも発句は蕉門中、誰もこの俳諧の新発知ほど芭蕉の寂びを捉へたものはない。近頃野田別天楼氏の編した「丈艸集」を一読し、殊にこの感を深うした。」
例句を十一句あげている。うち次のような句がある。
     木枕の垢(あか)や伊吹(いぶき)にのこる雪
     鶏頭(けいとう)の昼をうつすやぬり枕
     蜻蛉(とんぼう)の来ては蝿とる笠の中(うち)
いずれも龍之介の繊細な神経にマッチしているようである。
芥川龍之介が江戸俳諧から学んだ形跡は、実作品から覗い知ることができる。
     木枯の果てはありけり海の音          池西言水
     木がらしや目刺(めざし)にのこる海のいろ      我鬼(大正六年)
     夏の夜や崩れて明けし冷し物            芭蕉
     更(ふ)くる夜を上ぬるみけり泥鰌汁(どぢやうじる)  我鬼(大正十一年)
     ほちやほちやと雪にくるまる在所かな        一茶
     茶畠(ちやばたけ)に入り日しづもる在所かな     我鬼(大正十二年)
     むざんやな甲(かぶと)の下のきりぎりす       芭蕉
     むざんやな穂麦ぬぐふ馬の汗            我鬼(大正十三年)