川のうた(7)
夜の川の情景の歌には、独特な懐かしさ、哀しさを感じる人が多いのではないか。特に青少年期に慣れ親しんだ川の夜景には忘れがたいものがある。一首目の下町とは、都市の商工業地域のうち,おもに低地に発達した地域を指す。独特の生活情緒をもつ。
下町の密集地帯を流れゐるわが安らぎの川に対ひぬ
長尾福子
降る雪に円みを帯びゆく建物の灯りはじめぬ川を挟みて
三國玲子
夜の川混沌たりし三つ越え吊皮のみの支えに帰る
白井信子
つややかに光るバンパー夜に入りて地下駐車場は川の匂ひす
篠 弘
褐色の鉄橋をわたり汽車往けりどの窓も淡く河を感じて
前登志夫
野の鍛冶の刀打つ音の絶えて久しきこの岸辺には菱の花咲けり
松本静泉
夜の川の逆流しつつ灯のなかにとりのこされてゆく芥あり
滝沢 亘