冬を詠む(9/9)
枯草の乱るる下に惑ひなく土うるほひてゐたり冬の日
大野誠夫
冬の日といへど一日(ひとひ)は長からん刈田に降(お)りていこふ鴉ら
佐藤佐太郎
冬の日に乾く球根いのちもつものはいのちのかがやきをもつ
木俣 修
くれなゐの釦(ぼたん)拾ひぬ冬の日に河床(かしやう)の石のにほふ中きて
中 宗角
万象の稜(かど)確かなる冬の日を溶けたるやうにま鯉ら見えず
黒木三千代
冬の日のひかりしみみに差す杉生(すぎふ)根方の草は青くうるほふ
高橋宗伸
紺青に空割れてゐる冬の日に雪踏みてゆくその淡雪を
前 登志夫
上の一連は、「冬の日」を詠んだもの。
大野誠夫の歌は、擬人法が独特。
木俣修と前登志夫の歌は、リフレインが効いている。
中宗角は、奥熊野の住人らしい。自然との交流交感ができている、と自認している。
それだけに「冬の日に河床の石のにほふ」と言われても読者は戸惑うのではないか。
黒木三千代の歌では、上句と下句の対比が効果的。
高橋宗伸の歌にある「しみみに」とは、おびただしく、いっぱいに の意。