天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

洪水

 新型コロナ・ウィルスの勢いが止まらないままに、梅雨前線による九州豪雨の災害が起きた。大雨や洪水は古代から日本にもあったのだが、和歌に詠まれることは稀であった。雅を詠う和歌の射程には入っていなかったからである。ちなみに俳句では出水(梅雨出水、夏出水)として季語になっているが、作品は多くないようだ。

  時によりすぐれば民のなげきなり八台龍王雨やめたまへ

                金槐和歌集源実朝

  中高にうねり流るる出水(でみづ)河(かは)最上(もがみ)の空は秋ぐもりせり

                     若山牧水

  洪水の退きし畑にひろひたる童子の位牌さだかに読めず

                     嶋崎幸彦

  洪水に溶け出だしたるみずぐきをきのうの異土へと運べる潮

                     山田消児

  洪水のはじまりとして一粒の雨が誰かをすでに打つたか

                     香川ヒサ

  夜の川の逆流しつつ灯のなかにとりのこされてゆく芥あり

                     滝沢 亘

  洪水はある日海より至るべし断崖(きりぎし)に立つ電話ボックス

                     内藤 明

  洪水に押し流されてきし紙が立ちあがりつつ旗となりゆく

                     足立昭子

  洪水だあ、とはしゃいでたのは私です むろんヨーグルトになっちまいましたが

                     加藤治郎

  われ在りと思ふはさむき橋桁に濁流の音うちあたるたび

                     寺山修司

  泥まみれに踏みにじられしガラスの屑どしゃぶりの雨に蒼くきらめく

                     武川忠一

 

     草花にあはれ日のさす出水かな  原 石鼎

     出水や牛引き出づる真暗闇    村上鬼城

     輪中村囲みて濁る梅雨出水    松井利彦

     窓の犬出水の街に吠えてをり   藤川点翠

 

以下にわが近作を。

  大雨とコロナ・ウィルスに襲はるる令和二年の日本列島

  次々と線状降水帯かかり九州全土に大雨ふらす

  繰り返し大雨特別警報が出づれど避難ままならざりし

  避難せず娘待ちゐし両親は溺れ死にたり浸水の家に

 

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洪水(九州豪雨) (WEBから)