自然への挽歌(5/9)
谷川の早湍(はやせ)のひびき小夜ふけて慈悲心鳥は啼き
わたるなり 島木赤彦
やはらかに柳あをめる
北上の岸辺目にみゆ
泣けとごとくに 石川啄木
最上川逆白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも
斎藤茂吉
信濃川堰かれ堰かれて今日いゆくこころのうちを父に知らゆな
田井安曇
のぞきみる保津川の波しろがねの面々あらはれて岩を噛むなり
河野愛子
春の水みなぎり落つる多摩川に鮒は春ごを生まむとするか
馬場あき子
萓草の彼方流るる夏の川見えぬ仏が矢のごとくゆく
安永蕗子
宇治川はゆたにたゆたに青鷺のつばさ大きくはばたきて越ゆ
蒔田さくら子
日高川のみなかみにして杉青き龍神村に子らの声澄む
前登志夫
量感のけぢめなきまま海に入る濁れる青を吉野川といふ
岡井 隆
鴨川はまた風の川、立ちつづく四条大橋風中の僧
永田和宏
冬波をまさか目前に見ればうをのがは魚野川は鉈のひかりを
秘めて下れる 小島ゆかり
足元より昏れゆきいまだ勝たざると石を投げいる冬桂川
梅内美華子
四万十に光の粒をまきながら川面をなでる風の手のひら
俵 万智
阿武隈の中洲に群れて白鳥は寝ぬるといえり雪ふる夜も
高槻佑子