天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

副詞―個性の発現(9/11)

みみずく

一茶の場合: 時に下品に感じるほどに生々しいオノマトペ表現。十三例をあげる。
  うそうそと雨降(ふる)中を春のてふ
春雨とはいえ、蝶にとっては不安で落ち着かない様子が見て取れる。
  つるべ竿(ざを)きよんとしてあるわか葉哉
「つるべ竿」は、釣瓶を取り付けてある竿。「きよん」は、目立つさま。
  花ちりてゲツクリ長くなる日哉
桜の花が散って日永になることは、暑い夏になることなので、うんざりの気分か。
  寝た下を凩(こがらし)ずうんずうん哉
寝ている床の下を、遮るものなく木枯しがずんずん吹き通っている。
  木兎(みみづく)が杭(くひ)にちよんぼり夜寒哉
「ちよんぼり」からは、ちょこんとしょんぼり立っている様が浮かんでくる。
  ジヤジヤ馬のつくねんとしてかすむ也
いつもは元気で暴れる馬が一頭、ぼんやり立っているのがかすんで見える。
  ぬつぽりと月見顔なるかがし哉
月見をしているような案山子の顔の表情が「ぬつぽり」とは愉快。
  けろりくわんとして鳫と柳哉
「けろりくわん」は無関心なさま。
  水鳥よぷいぷい何が気に入らぬ
気に入らない時の顔つきや動作が「ぷいぷい」によく表現されている。
  稲妻にへなへな橋を渡りけり
橋を渡っている時に稲妻に遇ってびっくり、へなへなとなったのだ。
  汁のみのほちやほちやほけて夜寒哉
汁の実がひらく様を「ほちやほちや」とした。他にも三句に使っている。
  宵過(よひすぎ)や柱ミリミリ寒(かん)が入(いる)
家に入ってくる凄まじい寒さを、ミリミリと柱が音を立てるほどと表現。
  つり鐘の中よりわんと出る蚊哉
釣鐘の闇にたむろしていた蚊たちが、一斉に出てくる様子を「わんと」で表現。


展宏の場合: 現代風の分りやすい表現。十三例をあげる。
  朝涼の身の衰へは如何とも   
下に「しがたい」という打消し表現が省略されている。
  松蝉の遠く名告るやがあらがら   
松蝉はハルゼミの異名。その鳴き声の擬音語には「ゲーキョ・ゲーキョ…」「ムゼー・ムゼー…」などがあるが、展宏は「があらがら」と感受した。
  石を巻く秋の高波がぼごぼがぼ
石を巻いて音たてる秋の高波のさまが、この擬声語で目に見えるようだ。
  そそくさと輪を画いて消え蠅生る
あわただしく輪を画いて消えたのは蠅であり、そのあとに新たに蠅が生まれた。
  藤の実の棚よりたらりたらりらと
通常の「たらりたらりと」を、座五の韻律を合せるために「たらりらと」とした。
  なにがなしひつそりと食ふ秋鰹
なんということなしに、ひっそりと食べる様子が、美味な秋鰹と対比されている。
  落鮎のはたりはたりとたなごころ
「たなごころ」は、掌と表記するが、手のひらのこと。そこに載せた落鮎の様。
  ひとしきりそらにみづおと白木蓮
木蓮の咲く空に、いっとき水音が聞こえた。作者の意識がそこに集中したのだ。
  ふいふいと枝を出て来る青いちじく
青い無花果の実が自由気ままに枝に生る様子が擬態語でわかる。
  ぽかあんと吐いて吸つて淑気
新春の瑞祥の気を、病気の作者が力無く口を開けて呼吸している様子。
  むつつりと上野の桜見てかへる
桜が満開の上野は、花見客で混雑しており、作者は少し不機嫌になったようだ。
  乙字忌の滅法寒くなりにけり
俳人大須賀乙字は大正九年一月二十日に亡くなった。大寒であった。
  暗きより水もみもみと噴井かな
噴井の勢いよく噴きあげている水の動きを、揉み合っている様に表現した。