甲斐の谺(7/13)
(4)擬人法
活喩法とも言う。人でないものを人に見立てて表現する修辞法。親しみのあるいきいきした感触が生まれる。山岳に囲まれた甲斐の田野に豪農として生涯を送った蛇笏・龍太父子にとって、人間も自然の一部と捉える立場から、擬人法は必須とも言える修辞法であった。
蛇笏の例
大巖にまどろみさめぬ秋の山 『霊芝』
川波の手がひらひらと寒明くる 『雪峡』
大榾火けむらはで炎のあるきゐる 『山響集』
夏真昼死は半眼に人をみる 『白嶽』
おく霜を照る日しづかに忘れけり 『家郷の霧』
凪ぎわたる地はうす眼して冬に入る 『家郷の霧』
龍太の例
満月に目をみひらいて花こぶし 『百戸の谿』
ふるさとの山は愚かや粉雪の中 『百戸の谿』
短日の胸厚き山四方に充つ 『麓の人』
干天の冷えにのけぞる駒ケ岳 『麓の人』
月が出て濤が冬めく声を出す 『春の道』
百千鳥魚にも笑顔ありぬべし 『遅速』