月の詩情(6/12)
画賛句について
俳句を賛した簡略な絵(草画)を俳画と呼ぶが、画賛句は絵を賛した俳句のことである。談林俳諧においては井原西鶴も「画賛十二ヶ月」など俳画の連作を作っている。松尾芭蕉も俳画を残しており、門人たちも多くが俳画をよくした。近世後期には、文人画の大成者である与謝蕪村が『おくのほそ道図屏風』や『若竹図』などを描き、俳画を芸術の様式として完成させた。ここでは月の出る画賛句を見ておく。
月花もなくて酒のむひとり哉 芭蕉
この画中の人物は、通俗的な月花の風流を避けて、孤独穏逸の酒を飲んでいる。
月か花かとへど四睡の鼾哉 芭蕉
天宥法印筆「四睡図」への画賛。この図の心は真如の月か風流の花かと問うたら、答
えはただ豊干・寒山・拾得・虎の鼾だった。これが悟達の境地。
春もややけしきととのふ月と梅 芭蕉
空には朧月、地には梅の莟や花と、春の気配がととのってきたよ、との意。
涼しさに麦を月夜の卯兵衛哉 蕪村
「月」に「搗く」を掛ける。月の中の兎が麦を搗いているイメージと重ねている。
四五人に月落(おち)かかるおどりかな 蕪村
「英一蝶が画に賛望れて」の前書あり。英一蝶は狩野派に学び風俗画に優れた江戸の
画家。句からも情景が浮かんでくる。
雪月花つゐに三世のちぎりかな 蕪村
これは「牛若・弁慶図」の自画賛句。三世のちぎりとは、過去・現在・未来にわたる
主従の深いつながりのことで、謡曲「橋弁慶」を踏む。