秋刀魚のうた
サンマは北部太平洋に広く分布する温帯海魚である。日本周辺でいえば、晩夏北海道方面から南下し、秋に千葉沿岸にくる頃が旨い。
古くは「サイラ(佐伊羅魚)」「サマナ(狭真魚〉」「サンマ(青串魚)」などと読み書きされていた。大正時代になって、細長く刀状であり秋に豊漁になる魚であることから、秋刀魚の漢字表記になった。特に大正10年の佐藤春夫の詩『秋刀魚の歌』で、広くこの漢字が知れわたるようになったという。ただ注意すべきは、詩中にはひらがなの「さんま」が現れるだけで、漢字の「秋刀魚」はない。詩が有名になり表題から漢字表記が取り出されたのであろう。
秋刀魚食ふ月夜の柚子をもいできて 加藤楸邨
天が下秋刀魚煙らせゐたりけり 小寺敬子
秋刀魚けぶらせをりショパン聞いてをり 結城昌治
かにかくに釧路はよろし初秋刀魚 酒井鱒吉
宵早く片づけそむる店先の秋刀魚は雨にたたかれてをり
三ケ島葭子
口細き秋刀魚を下げて夜の痛き風に逆(さから)ふわが息の緒や
宮 柊二
どの家も秋刀魚を焼きて灯をともす韮(にら)の小花の白き夕ぐれ
宮脇瑞穂