目を詠う(3/6)
みほとけ の うつらまなこ に いにしへ の やまとくにばら
かすみて ある らし 会津八一
海底(うなぞこ)に眼のなき魚(うを)の棲むといふ眼の無き魚の
恋しかりけり 若山牧水
眼も鼻も潰(つひ)え失せたる身の果にしみつきて鳴くはなにの虫ぞも
明石海人
をさなごの眼の見えそむる冬にして天(あめ)あをき日をわが涙垂(た)る
前川佐美雄
親のかほけさやうやくに見出でたる瞳はいまだ水のごとしも
三ヶ島葭子
さらばとてさと見合せし額(ぬか)髪(がみ)のかげなる瞳えは忘れめや
石川啄木
かぎりなき知識の欲に燃ゆる眼を
姉は傷みき
人恋ふるかと 石川啄木
若山牧水の歌は、美人の人妻・園田小枝子との恋に破れた時の悔恨の歌。牧水は美人に振り回された自分の「目」が情けなかったのだ。目のない深海魚が恋しい、という。
明石海人はハンセン病を患っていた。病状が進むと抹消神経に麻痺が起こり、視力も臭覚も奪われ残ったのは聴覚だけ。そんな身に染み通るような清らかな声で鳴いている虫がいる。なんという虫なんだろう、と詠った。
石川啄木の姉は石川サダといった。啄木は終生、サダの悲恋に心を痛め、その不幸な死を悼み続けて、悲痛の心を歌に込めた。ここに引用の歌は、姉の立場で啄木を誤解してみていたことを詠んでいる。