天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

果物のうたー林檎(1/3)

 林檎は、バラ科リンゴ属の落葉高木樹、またその果実のこと。原産地は北部コーカサス地方という説が有力。世界中では数千から1万以上の品種が存在するという。日本には、古く中国からもたらされた和リンゴがあった。西洋リンゴは、安政元年(1854年)に、アメリカからもたらされ、加賀藩下屋敷(板橋宿)で栽培され、翌年に実をつけたために食用にされたという記録がある。(出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』)

 

  君かへす朝の舗(しき)石(いし)さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ
                     北原白秋
*不倫の女性との一夜が明けて、女性を送り出す朝の情景を詠んだ歌で、
 あまりに有名。

 

  一日の安居(あんご)をはりて楼(ろう)を下り成れる林檎をなでてみて帰る
                     土屋文明
*安居とはもともと、インドにおける雨季の間に寺院や一定の住居にとどまって
 外出しないで修行することを意味する。日本の禅宗では夏と冬に安居を行う。

 

  早生の津軽のりんごかたく酸し噛みて亡き吾娘(あこ)のごとしと思ふ
                     五島 茂
  一冬(ひとふゆ)の過ぎむ心か林檎煮るにほひ香(か)に立つ夜(よ)の部屋の内
                     柴生田稔
  幹太き林檎の根かた雪解けの水は浸して雪(ゆき)塊(くれ)うかぶ
                    窪田章一郎
  さらぼひつつ来りし一人敏捷にて敷石に置く林檎又煙草
                     小暮政次
*「さらぼう」とは、やせて骨と皮ばかりになる、という意味だが、「さらぼひつつ」
 とは、その途上にあることか。敏捷な動作との対比が異様に感じられる。

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林檎