天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

小池光の短歌―ユーモア(7/26)

オノマトペ
 *使われる場所・対象や意表を突く用法が笑いを誘う。

 

  むくむくと巻向山を抜く雲の力感おもひ気分勝れず   
                        『廃駅』
  つやつやと出でたる種三(み)つぶ干し柿の身のうちにしてやしなはれ来ぬ
                    『日々の思い出』
  うちつけに眼をあげたるに体育館の円蓋の雪、がくりとうごく 
  ほつかほつか弁当と相争ひてほつかほか弁当負けたるあはれ 
  齧歯類さながらこの子金太郎飴を折り食ふぱきんぱきんと  
                       『草の庭』
  壺的なうつはより箸にとりあげてほのぼのしろきうどんを啜る  
  かいらんばんことりと落ちし音きこゆ かたみに知らぬ誰か入れたり
                        『静物
  学校の木の階段はつやつやと息づきゐたりくだる足来(きた)る       
  つんつんと黒松苗木ゆれゆれつせまる雨脚(うきやく)におどろきながら     
  だぶだぶの純綿脚絆のりづけて階段くだるきやきやとか叫(おら)び     
  初霜はけさは降りたりほのぼのとめざむるやうに土もちあげて    
  ダイドコロの片隅にしてひよろひよろと白菜は花、つけにけるかも  
  まひるまの目撃にして赤椿ことりシトロエンのボンネットに落つ   
  一(いち)字(じ)市(し)の蕨の春の駅頭にふはふはとせる人びとのむれ  
                        『滴滴集』
  いつしかに耳の穴よりふはふはと毛が生えてきてお盆もまぢか
                        『梨の花』
  木耳(きくらげ)のくにやくにやしたもの食ひてをりあらそひごとを好まぬわれは 
  すがすがとわれは居るべし雪ふる夜(よる)再婚話のひとつとてなく    
  柏餅つるりとひとつ腹に入れうたの清書のつくえに向かふ     

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歌集『静物