小池光の短歌―ユーモア(7/26)
◆オノマトペ
*使われる場所・対象や意表を突く用法が笑いを誘う。
むくむくと巻向山を抜く雲の力感おもひ気分勝れず
『廃駅』
つやつやと出でたる種三(み)つぶ干し柿の身のうちにしてやしなはれ来ぬ
『日々の思い出』
うちつけに眼をあげたるに体育館の円蓋の雪、がくりとうごく
ほつかほつか弁当と相争ひてほつかほか弁当負けたるあはれ
齧歯類さながらこの子金太郎飴を折り食ふぱきんぱきんと
『草の庭』
壺的なうつはより箸にとりあげてほのぼのしろきうどんを啜る
かいらんばんことりと落ちし音きこゆ かたみに知らぬ誰か入れたり
『静物』
学校の木の階段はつやつやと息づきゐたりくだる足来(きた)る
つんつんと黒松苗木ゆれゆれつせまる雨脚(うきやく)におどろきながら
だぶだぶの純綿脚絆のりづけて階段くだるきやきやとか叫(おら)び
初霜はけさは降りたりほのぼのとめざむるやうに土もちあげて
ダイドコロの片隅にしてひよろひよろと白菜は花、つけにけるかも
まひるまの目撃にして赤椿ことりシトロエンのボンネットに落つ
一(いち)字(じ)市(し)の蕨の春の駅頭にふはふはとせる人びとのむれ
『滴滴集』
いつしかに耳の穴よりふはふはと毛が生えてきてお盆もまぢか
『梨の花』
木耳(きくらげ)のくにやくにやしたもの食ひてをりあらそひごとを好まぬわれは
すがすがとわれは居るべし雪ふる夜(よる)再婚話のひとつとてなく
柏餅つるりとひとつ腹に入れうたの清書のつくえに向かふ
