天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

小池光の短歌―ユーモア(23/26)

◆表記
 *通常は漢字で表記する言葉が、ひらがなやカタカナで書かれていると、読者は
  びっくりして立ち止まり、ユーモアを感じてなるほどと納得する。謎解き効果も
  ある。

 

  壺的なうつはより箸にとりあげてほのぼのしろきうどんを啜る 
                            『草の庭』
  どろの舟ちんぼつといふありさまに夕食はてて眠りしきのふ     
  ルリカケスのすがたをば見むとぱそこんの画面に呼びてをり昼つ方  
                             『静物
  かいらんばんことりと落ちし音きこゆ かたみに知らぬ誰か入れたり  
  ああ、そこに居る者は「妻」ダイドコロにて食器打ち打つ音は烈しく  
  佐渡がしまに似てゐる雲が鉄塔のうへにとどまるそのとき正午     
  ダイドコロの片隅にしてひよろひよろと白菜は花、つけにけるかも   
  うつぶせにをりあをだたみいまははや遠いところにある土ふまず  
                            『滴滴集』
  びにーるのふくろに填めてゐるものは昨日もけふも男人の髪      
  「太初(はじめ)にことばありき」あんめれ鉄砲水と水鉄砲はほとほと違ふ    
  ヌードルに「かやく」を乗せて湯そそぎすかやく火薬と人なおもひそ
                            『山鳩集』
  いちれつに軽鴨母子(ぼし)の鹵簿(るぼ)の列ひとは道あく土下座するまで     
  椿油つけて九年になりぬれば海石榴(つばき)のはなが咲くときがある 
                          『思川の岸辺』
  顔面に毛の無いことをあかしとし猿中(ゑんちゆう)の猿に雪舞ひくるか    
  雨の日はもんしろてふはどこにゐむ草葉の陰に何してをらむ   
  焼とん屋に「こめかみ」といふメニューありしばしおもへる豚の顳(こめかみ) 
                            『梨の花』
  「ペンパイナッポーアッポーペン」と唱へつつ五百羅漢のあたまを撫づる

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ルリカケス (webから)