身体の部分を詠むー膝(1/2)
如何にあらむ日の時にかも声知らむ人の膝の上(へ)わが枕(まくら)かむ
万葉集・大伴旅人
*大伴旅人が奈良の都の藤原房前に琴を贈ったときに添えた歌で、少女に化した琴が詠んだ形をとっている。意味は、「いつの日にか私の声色を理解してくれる人の膝の上をわたしは枕にするのでしょうか。」
うち日さす宮のわが背は倭女(やまとめ)の膝枕(ま)くごとに吾を忘らすな
万葉集・東歌
*人波の中、たった一人だけを目で探す。そんな自分を詠んだ恋の歌。「陽が射す宮殿への道を人が満ちあふれて通るけれど、私がお慕いするお方はただ一人だけ。」
このままに石になるべきここちしぬ膝を抱きてものを思へば
吉井 勇
膝抱きて歌をおもふは項垂(うなだ)れて死をおもふより少し楽しき
吉井 勇
秋となりわが膝さむき夜(よな)夜(よな)を燃え尽きぬなりさるびやの花
斎藤 史
*さるびや: ブラジル原産で、寒さに弱いため、屋外で冬越しできない日本の大半の地域では一年草扱いされる。花期は夏から秋。
膝つきて散らばる硝子ひろはむか酔漢の過失美しければ
春日井 建
教会の木椅子の如きわが膝を寄りくる子らのために悲しむ
中城ふみ子
*上句の直喩はどう解釈したらよいだろう。柔らか味のないガチガチの木の椅子のようなわが膝か。