天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー胸(3/3)

  骨太くわれ削られてふたふさの胸ある者に恋ひわたるなり
                      高野公彦
*初句二句の表現が独特。女性を恋慕っている男の心情を、肉体の上で言い換えたもの。

  胸に一つ点る思ひに風の間をショートカットに吹かれて歩む
                      永井正子
*下句の表現が分かりにくい。ショートカットは髪形のことか。

  ブラウスの肌透く少女わが前に胸のあたりが模糊(もこ)として立つ
                     田中子之吉
*「ブラウスの肌透く」は、「ブラウスに肌透く」が正確な言い方であろう。

  母となるを拒む胸なり春暁に猫の卵のごとくけぶるは
                      荻原裕之
*「猫の卵」って何? 猫は卵を産まない! 「ねこのたまご」と書けば、生クリーム大福の商品名。鉤かっこを外し、漢字に変えて書くと読者を惑わすことになる。そこが作者の工夫かも知れないが、避けたい作法である。素直に
  母となるを拒む胸なり春暁に「ねこのたまご」のごとくけぶるは
と書けば、分かりやすく品が良くなる。

  少年の胸はさみしきサンドバッグ打つ人もなく唸り続ける
                      飯沼鮎子
*少年は感動を与えてくれる人を欲しているのだが、現れない。悶々としているという。

  われよりもしずかに眠るその胸にテニスボールをころがしてみる
                     梅内美華子
  陽のなかに蝶ひるがえるかるさなら胸に入りこよ すきまだらけさ
                      江戸 雪
*軽やかな付き合いがしたいのだ。

  歌よりも句よりも短きひとことが胸に刺さりしままに秋来ぬ
                      小林訷子

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ねこのたまご」 (WEBから)