必ずやひとり老いゆく熟れし国遠くに置きて目を覆ひたり
斎藤すみ子
優勝をたたへ打ち振るなかに見つ<国>かかげざる簡浄の掌(て)を
岡崎康行
土も草も涸(か)れたるのちなお戦いて獲たる「自由」を国の名となす
香川 進
*どこの国を差しているのだろう?
釘を百本ぬいてつぶれる国つぶれぬ国のちがいをみたり
高瀬一誌
*初句は「釘を」の三音と読む。上句は大幅な破調。比喩の歌である。釘百本になにを当てはめるか?
木がくれにいましばらくは憩ふべし国乱るれば黄金(くがね)花咲く
前登志夫
*下句の状況が不可解。国が乱れれば金儲けができる、とでも?
豊葦原の国おとろへて、ぶた草の泡だつ道に 人は咳(しはぶ)く
岡野弘彦
*ぶた草: キク科・ブタクサ属の1年草で、アメリカでは5~15%の人が悩まされているといわれている花粉症の原因植物。1961年に日本で最初の花粉症として報告されたという。
かくばかり世は衰へて ひとりだに 謀叛人なき 国を危ぶむ
岡野弘彦
*謀叛人が出ないほど統制されている国は、活気がなく衰えていると見る。そのような国はやがて滅ぶのではないか。
ろうの木はどきりと赤し戦わず怒らず泣かぬ国のしたたり
佐伯裕子
*ろうの木: ハゼノキの別名。ウルシ科の落葉高木(樹高は10 mほどになる)。果実は楕円形で白く、果皮から蝋 をとる。秋に紅葉する。
歌は、紅葉したハゼノキの高木を見て、あり得ない国を想像したのであろう。結句は我慢して血を流している国を思わせる。