血のうた(3/5)
樹の幹を流れゐる血と男子らのよびごゑに眩(くら)む五月の少女
壮盛(さかり)過ぎむとして遇ふ真夏、手のとどく其処に血溜りのごとき日溜り
ふりかえる時諸共にふりかえり画廊の果てに血みどろの馬
岡井 隆
*諸共にふりかえったのは、連れ合いであったのか、はたまた血みどろの馬であったのか。この馬は画廊の絵であったのか、現実の馬であったのか。不思議な感じを呼び起こす。
夏草の茂みに伏して血を咯ける陽も昏(くら)ければ蜩蝉(かなかな)の生
*上句の主体は作者なのであろう。
神の怒りたもちがたしと嘆かへば血潮のごとし天ゆふ焼くる
一本の樫の木やさしそのなかに血はたったまま眠れるものを
血と雨にワイシャツ濡れている無援ひとりへの愛うつくしくする
岸上大作
*作者の代表作として有名。