わが児よ父がうまれしこの国の海のひかりをしまし立ち見よ
古泉千樫
雹まじり苗代小田にふる雨のゆゆしくいたく郷土(くに)をし思ほゆ
古泉千樫
古へを恋ひつつ吉野の山を行く吾をゆるせり国ゆとりありて
土屋文明
国こぞり電話を呼べど亡びたりや大東京に声なくなりぬ
中村憲吉
*関東大震災の折の状況であろう。
国といふものの脆さを実感とわがせるがごとくせざるがごとく
谷 鼎
鑑真の彫像をめぐりつつ思ふ母の遠きを国の遠きを
鹿児島寿蔵
*鹿児島寿蔵: 大正・昭和期の歌人、人形作家。鑑真の彫像は奈良唐招提寺御影堂の国宝像であろう。その周囲をめぐってつくづく見るに、母や国の遠さを思った、と詠む。この時、作者は鑑真の身になって考えていたのであろう。
自らの手もて自らを律し得ぬ理智なくて人も国も疲るる
生方たつゑ
軋みつつ背中の少女ゆすりゐる木馬、玩具の国にある危機
塚本邦雄
*木馬にまたがっている少女を見て、玩具の危なさを感じたのだろう。
身一つの始末を思へば足りし日よ国を言ひ死を言ひ遥かなりしかな
吉野昌夫
*作者が学徒出陣して過ごした日々の思い出であろう。