国やぶれ歌滅びなむといふこゑに我は答へきただ否とのみ
鹿児島寿蔵
国やぶれて唇紅きマグダレナ昼の巷にもの怖れなし
山田あき
*マグダレナ: ヨーロッパ系の女性名。マグダラのマリアに由来。
やぶれたる国に秋立ちこの夕の雁の鳴くこゑは身に沁みわたる
前川佐美雄
国やぶれ山河のもみぢかくのごと紅かりしやとおどろきて見つ
石川信夫
*この歌も杜甫の『春望』を踏んでいる。
銃身の菊花の章を潰せといふ敗れし日より五日目のこと
岡野弘彦
敗れたるいくさの後を零落れきてこの白砂に涙おとしき
岡野弘彦
しづかなる夕凪にして戦の終りし夏の苦しさ浮ぶ
大野誠夫
十歳を頭に子ども八人を守れる母に終戦のとき
渡辺純子