故郷を詠む(5/9)
みし人もなき故郷よ散りまがふ花にもさぞな袖はぬるらむ
兼好
*兼好はいろいろな場所に移り住んだので、この歌の故郷がどこを差すのか不明。概念的な感慨を詠んだ、と思える。
よもすがら声をぞはこぶ世々の人雲となりにし故郷の雨
正徹
*よもすがら: 副詞で、一晩中、夜どおし 。
雨まじり風うちふきてふる里にちる花さむし春の夕ぐれ
契沖
ふるさとにとまりもはてず天雲のゆきかひてのみ世をば経ぬべし
賀茂真淵
思ふ人ありとはなしに春雨のふるさとのみぞ恋しかりける
河津美樹
*「春雨が降る」と「ふるさと」とで「ふる」を掛けている。
若菜つむ春べになれば故郷の垣根わたりは目にぞ見えける
木下幸文
鶯のなくこゑきけばふる里をいでにし春にまたなりにけり
熊谷直好
*鶯の声を聞くと故郷を出た春を思い出す、という。
山椿さけるを見ればふるさとををさなき時を神の代をおもふ
坪内逍遥